🌙 概日リズムとカオス:トーラスの崩壊 ☀️
1. Strogatz 8.6節からの出発点
8.6節では、2つの結合振動子のモデルを学んだ:
θ̇₁ = ω₁ + K₁ sin(θ₂ − θ₁)
θ̇₂ = ω₂ + K₂ sin(θ₁ − θ₂)
これは概日リズム(体内時計)と睡眠覚醒サイクルの相互作用をモデル化したもの。位相差 φ = θ₁ − θ₂ を考えると:
φ̇ = (ω₁ − ω₂) − (K₁ + K₂) sin φ
これは円周上の1次元系に帰着 → カオスは起きない。
2. カオスへの自然な拡張:Circle Map
現実の概日リズムでは、外部の明暗サイクル(光)が体内時計を同調させる。これを離散時間でモデル化したのが Circle Map:
θn+1 = θn + Ω − (K/2π) sin(2πθn) (mod 1)
パラメータの意味
- θn:n日目の夜に測った体内時計の位相(0〜1)
- Ω:体内周期/外部周期の比(ヒトでは ≈ 24.2/24 ≈ 1.008)
- K:光の同調力(結合強度)
なぜ離散時間?
光は主に朝に体内時計をリセットする。毎朝の「位相リセット」を1ステップとして離散化。
3. 結合強度 K による3つのレジーム
| K の範囲 |
挙動 |
生物学的解釈 |
| K = 0 |
純粋な回転(準周期) |
光のない環境、free-running |
| 0 < K < 1 |
位相ロック or 準周期 |
正常な同調 or 軽い時差ボケ |
| K = 1 |
臨界点 |
同調の限界 |
| K > 1 |
カオス |
リズム崩壊、深刻な睡眠障害 |
4. インタラクティブ・デモ
準周期(トーラス上の流れ)
5. 分岐図:トーラスの崩壊を可視化
K = 1 付近でトーラスが崩壊し、カオス領域(点が散らばる)が現れる
6. なぜ K > 1 でカオス?
写像の微分
f'(θ) = dθn+1/dθn = 1 − K cos(2πθ)
- K < 1:|f'(θ)| ≤ 1 + K < 2、写像は単調増加を保つ
- K = 1:θ = 0 で f'(0) = 0(臨界点)
- K > 1:f'(θ) が負になる領域が出現 → 写像が非単調(折り返す)
カオスの本質
K > 1 では写像が「折り返す」ため、近接した2点が反対方向に引き伸ばされる。
これが初期条件への鋭敏な依存性を生む。
リアプノフ指数
λ = limN→∞ (1/N) Σ log|f'(θn)| = limN→∞ (1/N) Σ log|1 − K cos(2πθn)|
- λ < 0:周期軌道に収束(位相ロック)
- λ = 0:準周期(トーラス上を漂う)
- λ > 0:カオス(軌道が指数関数的に分離)
7. 生物学的・医学的意義
実際の概日リズム障害との対応
| 数学的状態 |
臨床的状態 |
例 |
| 1:1 位相ロック |
正常な同調 |
健康な人の睡眠 |
| 位相ロック外れ |
自由継続リズム |
全盲者、北極圏の冬 |
| 準周期 |
周期的な不調 |
時差ボケ、シフトワーク |
| カオス |
完全なリズム崩壊 |
ICU症候群、重度うつ病 |
注意
実際の概日リズム系はもっと複雑(多数の時計遺伝子、フィードバックループ)。
Circle Map は本質を捉えた最小モデル。
8. まとめ:8.6節からカオスへ
8.6節(連続時間、2振動子)
↓ 外部周期駆動を追加 ↓
Circle Map(離散時間)
↓ K を増加 ↓
トーラス崩壊 → カオス
Strogatz 8.6節の結合振動子はトーラス T² 上の流れを記述していた。
外部駆動と非線形性を強めると、トーラスが「しわくちゃ」になり、
最終的にストレンジアトラクターが現れる。
これが Ruelle-Takens のカオスへのルート の一例。