📐 Strogatz 8.7節:ポアンカレ写像
1. ポアンカレ写像とは?
連続時間の微分方程式を離散時間の写像に変換する強力な手法。
アイデア:流れに「ストロボを当てる」
- 流れに横断的な断面 S(ポアンカレ断面)を置く
- 軌道が S を通過するたびに点を記録
- 連続: x(t) → 離散: x₀, x₁, x₂, ...
xn+1 = P(xn)
P: S → S がポアンカレ写像
2. 連続系と離散系の対応
| 連続系 |
離散系(ポアンカレ写像) |
| 周期軌道 |
固定点 |
| 周期軌道の安定性 |
固定点の安定性 |
| 周期軌道の分岐 |
写像の分岐 |
| n次元の流れ |
(n-1)次元の写像 |
次元削減の威力:3次元の流れ → 2次元の写像 → 解析が楽に!
3. 特性乗数(フロケ乗数)
周期軌道の安定性は、線形化したポアンカレ写像の固有値で決まる。
un+1 = [DP(x*)] un
DP(x*) = ヤコビ行列、u = x* からの微小摂動
固有値 λ(特性乗数)による安定性判定
| |λ| の値 |
周期軌道の安定性 |
| すべて |λ| < 1 |
安定(摂動が減衰) |
| いずれか |λ| > 1 |
不安定(摂動が成長) |
| |λ| = 1 |
境界的(分岐点) |
注意:周期軌道に沿う方向への摂動(時間並進)に対応する自明な乗数 λ = 1 は常に存在するが、これは無視する。
4. デモ1:ポアンカレ断面の概念
3次元空間で周期軌道を横切る断面 S を設置。軌道が S を通過するたびに点を打つ。
5. 例題 8.7.1:極座標系のリミットサイクル
r = 1 に安定なリミットサイクルを持つ。周期 T = 2π。
ポアンカレ写像の導出
断面 S: θ = 0(正の x 軸)を選ぶ。
ṙ = r(1 − r²) を解くと:
rn+1 = P(rn) = [1 + e−4π(rn−2 − 1)]−1/2
固定点と特性乗数
- 固定点: r* = 1(リミットサイクル)
- 特性乗数: λ = P'(r*) = e−4π ≈ 3.5 × 10−6
- |λ| < 1 なので安定
6. デモ2:例題 8.7.1 の可視化
帰還点列 r₀, r₁, r₂, ... (断面 S 上の点)
リミットサイクルは安定(λ = e⁻⁴π ≈ 0)
7. デモ3:パラメータ付きの系
μ > 0 のとき r = √μ にリミットサイクル。μ の値で安定性の強さが変わる。
8. まとめ:なぜポアンカレ写像が重要か
- 次元削減:n次元の連続系 → (n-1)次元の離散系
- 周期軌道の解析:閉軌道 ↔ 固定点の対応
- 安定性判定:特性乗数 |λ| で判定
- カオスへの橋渡し:ローレンツ系のストレンジアトラクター解析(9章)
- 10章への準備:1次元写像のカオス(ロジスティック写像など)
カオスとの接続
ポアンカレ写像が「折り返す」(非単調になる)と、カオスが生まれる可能性がある。
これは8.6節のトーラス崩壊とも関連する重要なテーマ。